動物と人間の違い


 昔から、自分達が他の動物と比べて優れていると信じている人間の方が大多数であったろうと思います。人間の優位性を証明しようといろんな切り口から考察してきました。中でも典型的な問い方は「人間とその他の動物に差異を生んでいるのは人間のいかなる点か」というものです。

 そこには「
人間は他の動物とは一線を画している」という前提があり、他の動物は全てまとめて人間以外とされています。そして下等な人間以外と比べて、なぜ人間は高等であるのかということを問うているのです。

 ある人は優れた知性を持つことだと言い、ある人は道具を使うことだと言い、またある人は言葉を使うことだと言います。しかし、知性自体は他の霊長類においてもかなり発達しており、一部のサルは道具を使うこともできます。鳴き声を用いた仲間同士の意志疎通であれば、イルカなども行っています。決定的な決め手がなにか、いまいちはっきりしていません。

 人間が特別な存在であると信じている人にはなかなか答えが出ませんが、人間が特別な存在であるという概念を取り除いて考えると、あるひとつの回答を出すことができます。

 その答えは「
質問の設定自体が間違っている」というものです。人間が地球上に数ある種の中のひとつであると考えると、人間の持つからだの仕組みや特性は絶対的な優位性を持つものではなく、種の特徴のひとつとして人間が持っているものとなります。それは人間の存在を特別なものではなく、相対的な存在として捉えるということです。

 色をたとえ話として用いると、先の設問は「紫が紫以外の色と異なる点はどういうことなのだろう」という問いと同じような同じ問い方をしていることに気がつきます。紫は赤や黄などと同じ「色」のひとつですが、それぞれがそれぞれの色なのであって、紫がその他の色と比べて特別というわけではないのです。

 人間に話を戻して言いなおすと、
人間も他の動物も動物の中のひとつであり、人間が他の動物と特別に異なる点はどこなのかという問いは設定のたて方自体がおかしいのです。人が犬と異なるのは犬がクジラと異なるのと同様であり、先の設問は「犬と他の動物との差異はなんだろう」と言い換えても同じものになります。同じ「動物」という分類の中でも、それぞれの種にはそれぞれの違いがあるのであり、どの種もどの部分をもって特別とは言えないのです。

 蛇は毒を持つのが特徴であり、鳥は飛ぶのが特徴だと言ったところで、それは人間から見て特徴的と感じられる点であり、人間が感じていることが絶対的な種の特徴であるとは言い切れないのです。
主観によって得られた感想は客観的事実とは言い切れないからです。

 人間が信じている世界観も、大切に思っている価値観も、
人間社会の中では適用することができても、人間の枠組みを超えたところに適用することはできず、適用しようとする行為自体に誤りがあるのです。

 言語学者のソシュールは、「人の言葉の概念は、他の言葉との対立、差異があることによって成立する」と言いました。「ヒト」という言葉は「イヌ」や「サル」など、他の動物の概念があって、その中で成り立つ概念です。しかし、人間は他の動物との違いがあるからこそ人なのではありません。人間は「
特別であることを望むために、他の動物との差異を見つけだそうと考える」動物なのです。


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