絶対的な存在無しに人はアイデンティティを確保できるか
アイデンティティ
とは
自分の存在に対しての確信
であり、
自分が自分であることの心のよりどころとなるもの
です。
個人が社会の中でアイデンティティを持つと言うことは自分が何を持って社会に貢献していくかを見つけだすと言うことです。
人というひとつの種がこの世界の中でアイデンティティを持つと言うことはどういう事でしょうか。
昔から人は
自分とは何か、世界とは何か、世界の中で自分というものの存在にはどういう意味があるのか
ということを考え続けてきました。それを可能にしたのは発達した大脳です。初めは体の動きを制御し簡単な情動をコントロールするだけだった脳は長い年月を経て意識と自我を持ちはじめました。
発達した知性により、
いつからか人は自分と世界を考え始めるように
なったのです。
宗教概念は世界と自分の存在を結びつけて思考する過程で自然におこってきました。アニミズムの段階にあったときには人間は
自然の中の一部
であり、生きるということ自体が直接向き合うべき死活問題で、人間は特別な存在ではありませんでした。
農業が発達し、余剰人口から職業が生まれた時点になって、初めて多神教・一神教の段階に至り、
いつしか人は自らを特別な存在と考え始めるようになりました
。
世界中に数多く創り出された宗教の中に共通するのは、
特別な存在である<絶対者>を想定し、<絶対者>に人間に特別な地位と高い価値を認めさせることによって、人間は世界の中で特別な存在であり高い価値があると理論づけている
と言うことです。
それは人間の
自尊心を満たし
、
人間の存在に対してのひとつの答え
を与えてくれるものです。
不安定に見える世界の中で絶対的な存在を想定することは、唯一うつろわざるものとして心のよりどころとなり、生きていく上での指針となるものです。
確かに絶対的な存在の概念は便利であり、恐ろしいほどの強力な影響力・拘束力を持っています。そしてその考えは人の心に深く浸透することが可能であり、人を通じて伝搬されていきます。
ただ問題なのは、それが本当に正しいことであるのか、人類の未来にとって本当に有益かどうかと言うことです。
人がひとつの種として生存の武器にしているものは知性です。
他の種よりも格段に大きな大脳皮質は世界を捉え、判断し、そこから新しい生き方を創造するということを可能にしています。
人の生存のための最大の武器は
変化する環境に合わせて新しい道具や生活方法、社会の形を創り出していくという高い適応能力にある
と思います。
ヒトというものがひとつの種に過ぎず、全ての生命が追い求めているものをヒトなりの方法で追い求めているのであれば、根本の部分は人においても他の種においても何ら変わりはありません
。
変化する環境の中で生き抜くために大切なことは、
自分と世界を正しく認識
し、その中で最もより良い将来を選択できるよう
本質を見抜く
力です。
自分と世界についての認識を固定させ、再考や批判を許さず盲目的に信じさせると言うことは、思考の放棄をすることだ
とも言えそうです。
自らの頭で考え、答えを出すと言うことに人間のアイデンティティがあるとするならば、
固定された世界観の中で思考を放棄することは人としてのアイデンティティを喪失することだ
といえるのかも知れません。
変化する環境に合わせて生きていくというためには固定された概念はむしろ害悪となるかも知れません。間違った認識の元間違った目的を追い求めるならば、人類の行き先をも見誤らせる可能性があります。
人は社会をつくり、その中で生きていく生物です。人が環境の中を生き抜いていくと言うことは人間社会が変化する環境に適応していくと言うことを意味しています。
社会の発展はより冷静で本質的な思考と選択を可能にします。そして社会で生きる個々人がより幸福感を感じつつ生きていけるようにするためにもより良い社会の形を模索するのは人類全体の目標であるはずです。
ヒトという種が世界の中でアイデンティティを持つと言うことは、ヒトという種が世界の中で何を持って生き抜いていくかと言うことだと思います。すなわち、
人が人であることのアイデンティティは、思い、悩み、より良い答えを探して考え続けることそのものにある
と思います。
答えがあるからそれを求めるのではありません
。
より良くなることを目指し続けるからこそ、次の形を模索し続ける
のです。
決まった答えはありません。次の形は自分たちで創り出していくしかありません。ただ、
自分たちで創り出したものを唯一絶対なものとして再考も批判も許さないようにしてしまうことはしてはいけないと思います
。
絶対的なものを自ら創り出し、それを価値あるものだと唱えることが誤謬を創り出すことにつながる
のだと思います。
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