フィラリア予防/HDU概念による予防期間の考察


 HDUとはHeartworm Development heat Unitの略で、近年フィラリアの感染可能期間を類推する方法として日本犬糸状虫症研究会、犬フィラリア症予防普及会により提唱されているもので、概ね感染期間と一致すると考えられています。

 
((最高気温+最低気温)/2)-14
 を1日HDUとし(マイナスの時には0とする)、

1.春はそれを加算していって
130を超えた時点
2.冬は最近30日間の合計HDUが
130を切った時点

 を計算で求め、その間を感染可能期間と予想するものです。気象庁発表のデータを用いて福知山地方における1990年以降の感染可能期間を計算しました(地方により温度差がありますので期間は異なります)。

 この表から分かるのは通常福知山地方では
5月下旬〜6月上旬に感染可能時期に入り、10月下旬に感染終了となるということです。
 近年では温暖化の影響か10年前よりも春の感染開始が早くなってきているようです。今後開始時期が早くなっていく可能性はあるかもしれません。
 また1998年のように早く感染開始となり遅くまで感染可能な年もあるため注意が必要です。
年度
感染開始
終了時期
1990
6/2
10/24
1991
5/26
10/22
1992
6/7
10/18
1993
6/1
10/16
1994
5/23
10/26
1995
6/7
10/24
1996
6/1
10/17
1997
5/25
10/13
1998
5/8
11/2
1999
5/28
10/28
2000
5/28
10/22
2001
5/25
10/21
2002
5/23
10/27
2003
5/25
10/18
2004
5/20
10/26
2005 5/27
10/27
2006 5/30
11/2
2007 5/29
10/27
2008 5/30
10/26
 また、あくまで予想ですのでこの数字よりも若干早くから出る可能性はあります。

 以下の表は最近の気温変化とHDU概念から求めた予防期間を図示したものです。
 フィラリアは
15.6℃以上で感染幼虫が体内で発育すると言われています。上のデータと合わせると、赤線(15℃)のラインを超えて2〜4週間前後してから、下回って2〜3週間前後くらいまで感染能力があることが分かります。


 下の図はフィラリアの幼虫の成長と駆虫の時期を図にしたものです。
 左は開始の時期です。98年のように突発的に暖かくなる年があり得ることから安全域を取り、5/3を最初の感染時期と仮定しています。
 右は終了の時期です。それほど変動が見られないことから、11/2を最後の感染時期と仮定しています。


 フィラリアの成長はL1ミクロフィラリア)から始まります。L1は体内にいても、そのままでは成虫まで成長することができません。一旦、蚊の吸血によって蚊の体内に入り込み、L3まで成長して、犬に感染する能力を得ます。寒い時期に蚊がL1を取り込んでも、L1は成長できずに蚊の体内で死んでしまいます。

 L3まで成長した虫を持った蚊がもう一度犬を刺すと、その傷口からL3が犬の体内に入り込みます。
 L3は犬の体内(皮下・脂肪組織)で成長し、
放置しておくとL5まで成長して心臓に移行してしまいます。心臓まで虫が到達すれば感染成立ということになります。

 フィラリアの予防薬と呼ばれているものは実際には
フィラリアの幼虫が皮膚の間にいる間に殺す駆虫薬です。予防してくれる薬だと勘違いしている飼い主さんも多いと思うのですが、予防効果はいっさいありません!

 イベルメクチンL4幼虫のみを殺すもので、確実に殺せるのは感染15〜50日齢の幼虫です。確実な駆虫期間はミルベマイシンよりも短いのですが、ジャーキータイプは錠剤よりも投与がより確実です。
 
ミルベマイシンL3,L4,L5初期の幼虫を殺すもので確実に殺せるのは感染15〜60日齢の幼虫です。L3もほぼ死にますが、L4ほど確実ではありません。錠剤では後で吐き出していることに注意しないといけませんが、確実な駆虫期間はイベルメクチンよりも長いです。

 どちらもしっかり飲めば駆虫効果はほぼ100%のすぐれた製剤です。なお、
お腹の調子が悪いときに飲ませると消化・吸収が弱く効きが悪くなる可能性がありますので、その時には1〜2日ずらしましょう。

 また、
コリーへの高用量のイベルメクチン投与は神経症状などの副作用を起こすことが知られていますが、フィラリア予防量として使用される低用量使用では安全性が確認されています。

 予防薬の投与期間は5月後半から12月前半までです。
最低7回は飲ませることが必要です(地域によりますので注意!)。

 フィラリアの幼虫を殺すことが目的なので、確実にいないと思われる時期すなわち4月までに飲ませることは意味がありません。

 フィラリア予防は単純なようで奥が深いものです。今後の知見の追加によって手直しされることがありますのでご了承下さい。