フィラリア感染が分かったらどうするか


 フィラリアに感染しているのが判明した後の治療方法についてはいくつかの選択肢があります。
 フィラリアは肺動脈の中で寄生虫が生活することによって病変が徐々に進行していく病気です。
病変と症状は寄生数と寄生年数に比例して悪化します。
 そのため、
それ以上の寄生をくい止めるための予防は必要です。問題は今肺動脈の中にいるフィラリアをどうするかです。

1.
積極的な成虫駆除
 積極的な治療法としては薬物による成虫駆除と外科手術による虫体摘出があります。
成虫駆除剤の注射
 メラルソミンというヒ素系の駆虫薬を注射することにより成虫を駆除します。薬剤自体の毒性は低いですが、死んだ虫体が動脈に詰まることにより副作用がおこる可能性があります。
 お腹の中の虫は駆虫すれば便と一緒に出ていきます。が、肺動脈の中にいる虫はそうはいきません。
死んだ虫は必ず動脈の末端に詰まります
 考えられる副作用は
咳、発熱、最悪は死亡です。
 その副作用を軽減するために
二段階駆虫というものが提唱されています。これは駆虫をその名の通り二段階に分け、最初の駆虫で一部を殺し、1ヶ月後に最初の塞栓の影響が治まってから2回目の駆虫で全部を駆除するものです。この方法により、より安全に駆除を行うことができます。デメリットは治療費がその分かかることです。
 いずれにせよ、あまりにたくさんの虫体が寄生していたり、病状が進行している犬では駆除のリスクは高くなります。
外科手術による摘出
 頚静脈から鉗子を用いて心臓・肺動脈内の虫体を摘出する方法です。駆除剤注射でおこる死滅虫体の肺動脈塞栓はおこりませんが、麻酔が必要です。また、
虫体はベナ・ケバシンドローム以外ではフィラリアは心臓の中には存在しておらず、特に肺動脈の末端などにいると、手術をしても完全に駆除しきるのは至難の業です。
 手術をしてから駆除剤を組み合わせる方法もあります。

2.
消極的な成虫駆除
 成虫の寿命は
5〜6年であり、それ以上の感染さえなければ時間と共に虫体数は減っていきます。それに加え、イベルメクチン製剤の予防用量を長期間(1〜2年)服用することにより、成虫が少しずつ死んでいくことが報告されています。
 駆除剤注射と異なり、急性症状は出にくいですがフィラリアはすぐには死にません。

積極的に治療するか、消極的に治療するか
 結論から言えば、それぞれにメリット・デメリットがあるためどれが一番とは言えません。
 積極的な治療は肺動脈栓塞や麻酔と言ったリスクが伴います。その一番のメリットは
虫体を速やかに肺動脈内から除去することができることです。先に述べたように肺動脈の病変は寄生の期間に比例します。消極的な方法では速やかな殺滅はできないため、フィラリアが死ぬまでの間に肺動脈病変が進行する可能性があります。
 一方で消極的な方法では
大量の死滅虫体や麻酔に伴うリスクというものはほぼありません
 重度の寄生ですでに咳などの症状が出ているときに駆除薬を使用することにはそれなりのリスクが伴います。ベナ・ケバ直前で心臓内に虫体があふれ出てきそうな段階まで来ていたら、手術を考慮するのがいいかも知れません。
 各症例ごとに、飼い主さんのお考えにより、最善と思われる選択をしていただければよろしいかと思います。

参考)日本糸状虫協会のガイドライン