偽妊娠




 発情期の前後には卵巣や脳の視床下部から様々なホルモンが分泌されて、体がその影響を受けています。
 犬の発情期の排卵後には卵巣に黄体というものができ、そこから
プロジェステロン黄体ホルモン)というホルモンが出ます。妊娠していてもしていなくても同じ期間プロジェステロンは活発に分泌され、その影響で子宮は妊娠しているのと同じ状態になり、乳腺も徐々に発達してきます。
 妊娠犬では妊娠後半に
プロジェステロンの分泌量は低下し始めます。その低下を刺激として視床下部からのプロラクチン(乳腺刺激ホルモン)の分泌量が増えてきます。このホルモンの影響で乳腺は腫脹し乳汁を分泌し始めます。また、妊娠しているかのような行動を取り巣作りを始めたりすることがあります。ホルモン分泌の低下とともに偽妊娠は終了しますが、発情期毎に繰り返すことが多いです。症状に多少の差があるだけで、全ての雌犬に偽妊娠が起きます。
 人間と違い想像妊娠というものはありません。ホルモンの影響でおきている病気ですので、避妊手術してあげることにより通常以後の偽妊娠は起こらなくなります。ただし
、偽妊娠中に手術をするとプロジェステロンの急激な低下からプロラクチンの分泌亢進につながり、偽妊娠状態が永続することがありますので、手術は乳腺が落ち着いてからになります。
 多くは発情後12週までに偽妊娠が終了しますが、14週以上続く場合には早く偽妊娠を終わらせるためにプロラクチンの分泌量を下げる治療をします。性ホルモンの注射によりプロラクチンの分泌を抑制させるか(再発が多い)、抗プロラクチン薬を使用するか(効き目高いが吐き気の副作用あり)になります。保存療法としては飲水量を減らし、利尿薬を使用する方法もあります。
 犬は多産型の動物であるため
偽妊娠・乳腺腫瘍・子宮蓄膿症など生殖器の病気が多いです。発情期を繰り返す毎に病気になるリスクが高くなっていきます。繁殖に使わない動物では若いうちに避妊手術を受けておいた方が良いでしょう。