股関節形成不全




 股関節を構成している、大腿骨と骨盤の形がいびつになることにより、股関節のはまり具合が悪くなる病気で、運動能力の低下や痛みの原因となり、生活の質を低下させてしまいます。

 
セントバーナードやジャーマンシェパード、ゴールデンレトリーバーやラブラドールレトリーバーなどの大型犬に多く、遺伝的素因が深く関係していると言われています。

 
成長期の繰り返しの亜脱臼が関節変形の最大の要因と考えられています。
 
生後60日までが最重要な期間で、この時期に股関節がしっかりはまるように成長すれば、病気の発症は起こらないのですが、この時期にしっかり固定されずに成長してしまい、運動により亜脱臼を繰り返し続けると発症に至ります。
 亜脱臼により、関節の表面(=関節軟骨)はダメージを受けます。ダメージを受けた軟骨は修復されますが、修復後は、ダメージ前よりも少しいびつな形になります。
 そして、【
ダメージ→修復】の過程が繰り返されるうちに軟骨と関節構造はぼろぼろになり、年齢とともに関節の変形性変化が進行していきます。

 関節に大きなダメージを与える大きな要因のひとつは
肥満です。肥満していることにより、関節は大きな負担を持続的に受け、病気の進行を速くします。
 激しい運動や関節をしゃくるような運動、特にジャンプ運動は避けた方がいいですが、一方で
軟骨の成長と周囲の筋肉の発達には適度な運動が必要です。理想的には水泳が良いとされていますが、適度な歩行運動はさせてあげた方が関節のためには良いです。

 通常、飼い主さんが動物を飼い始めるのは生後60日よりも後ですが、飼い始めた時点で関節が正常に発達しているかは判断不能です。したがって、発症のリスクを軽減するため、
大型犬の成長期においてはなだらかな成長をさせることが大切です。
 そのため大型犬には、
低カロリー・低カルシウムのフードを与える必要があります。骨を与えることは厳禁です。カルシウムの添加により、たしかに骨は丈夫になりますが、体重が増加した分の負担は未成熟な関節にかかることになります。そのことは、股関節形成不全の素因を持っている子にとっては、取り返しのつかない悪影響となります。カルシウムの添加は百害あって一利無しです。カルシウムの添加によって、股関節形成不全以外にも、骨軟骨症やカルシウム中毒、消化管障害などのリスクがあがると言われています。

 股関節の形成不全があったとしても、多くの場合、幼犬の間は症状は分かりません。症状が現れるのは、もっと病気が進んで、股関節の異常が顕著になった段階になってからです。
 股関節の形態が異常になると、股関節の構造的な異常により、犬は腰を揺らしながら歩いたり、走る時に両足を揃えて走ったりします。
 また、軟骨がダメージを受け関節炎がおこると、犬は痛みを感じ、跛行したり、散歩を嫌ったりします。
 
運動能力の低下や痛みにより、犬の生活の質は低下してしまいます。

 診断は触診やX線検査で行います。
 初期の素因の発見には、亜脱臼の確認が必要ですが、脱臼するかどうかは無麻酔下では判別困難なことが多いため、異音の確認のためには鎮静剤や麻酔が必要かも知れません(避妊・去勢の時についでに見ておくことができます)。
 初期のレントゲンでは大きな変化は見られませんが、病気が進行すると、
大腿骨骨頭のいびつな形状、骨盤のくぼみの平坦化などの構造の異常が確認されるようになります。

 治療は、状態により変わります。軽度の場合は
極端な運動を避け(特にジャンプ運動)、まず体重を落とすようにします。痛みを起こしている場合は、運動と体重の制限と同時に、鎮痛剤を服用します。場合により手術を行い変形性変化を取り除いたり、大腿骨骨頭を切除します。大型犬では骨頭切除ができない場合もあります。

 この病気は、少しずつ進行していく病気ですので、亜脱臼や関節の異常が確認された時点で、関節の保護の保護のためのケアをしてあげることが勧められます。
 ダメージを受けた関節の正常な修復を助け、痛みを和らげる
サプリメントが開発されており、初期から服用することにより関節の変形と症状の進行を緩やかにすることが期待できます。
 また、関節保護のためのサプリメントが添加されているタイプの
フード(ウォルサム関節サポートやヒルズj/dなど)もあります。
 長期的な予後を考えると、症状の出ていないうちからケアをしてあげた方が良いでしょう。こ
の病気は進行する病気であり、一旦悪くなった関節構造は、元通りには戻らないからです。

 股関節形成不全の発症原因の約70%は遺伝的要因と言われています。子犬を飼う場合は両親が股関節形成不全でないかチェックしておいた方がいいでしょう。