免疫介在性の多発性関節炎(特発性多発性関節炎)




 動物の体は、異物に対して攻撃する力、すなわち免疫力を持っています。
 異物が体内に侵入してきたと関知した場合、異物=
抗原に対して、それを撃退するための抗体を作り、攻撃を行って異物を排除しようとします。
 抗原と抗体が結びついたものが
抗原抗体複合物です。
 正常な状態では、作られた抗原抗体複合物は、炎症の終息と共に体から無くなりますが、
体の中で免疫反応が長期に渡って起こる場合には、多量に産生された抗原抗体複合物の処理がしきれなくなり、体の中に複合物が溜まって体に悪影響を及ぼします(3型アレルギー)。

 免疫介在性の多発性関節炎(
特発性多発性関節炎)は、関節内に抗原抗体複合物が沈着し、関節内で炎症が生じてしまった状態です。
 正常時は、「血液・滑液関門」によって、血液中の抗原は関節内には侵入しないようになっていますが、何らかの原因により関門が働かなくなると、抗原が侵入し、炎症に至ります。
 関節炎は、炎症の起こり方によりいくつかの種類に分かれますが、この病気はそのうちの
非感染性非びらん性関節炎とされるものです。

 抗原抗体複合物のできるメカニズムと他の臨床症状によって、4つに分類されます。
1.合併症のないもの
 目立った合併症状が見られないものです。ジステンパー抗原と関係しているという報告もあります。
2.感染症と関連するもの
 関節以外の炎症や膿瘍など、感染由来の抗原が血液中に存在することにより、それに関連した抗原抗体複合物が産生されます。
3.胃腸疾患と関連するもの
 胃腸は消化・吸収を行う臓器であると共に、異物が体に入ってこないようにするためのバリアとしての役目も持っています。胃腸に障害が起こることにより、抗原となる物質が体に入りやすくなり、抗原抗体複合物が産生されます。
4.腫瘍と関連するもの
 腫瘍の存在は体の免疫反応を刺激します。その結果、抗原抗体複合物が産生されやすくなります。

 症状は、
他の免疫性関節炎と似通ったものになります。全身硬直、休息時に悪化し軽い運動後に改善される関節の硬直、発熱、沈鬱、食欲不振、全身性筋萎縮などが見られます。
 慢性的な抗原への暴露が基礎にあることが多いため、抗原抗体複合体の関節以外の影響として、
皮膚炎、糸球体腎炎、ブドウ膜炎、網膜炎などが見られることがあります。

 レントゲン像では、目立った像が見られないこともありますが、
関節周囲の腫脹、滑液滲出の増加、骨膜炎などが見られます。リウマチ様関節炎と異なり、関節構造の破壊はあまり見られません。
 血液検査では、
白血球の増加がよく見られます。他の免疫疾患を鑑別するために、抗核抗体(全身性紅斑性狼瘡で陽性)やリウマチ因子(リウマチ様関節炎で陽性)が陰性であることを確認しておいた方がよいです。

 鑑別診断としては、
全身性紅斑性狼瘡、リウマチ様関節炎、多発性関節炎、多発性筋炎、細菌性心内膜炎、細菌性関節炎などがあります。

 治療は、
ステロイド免疫抑制剤により、免疫反応を抑えます。感染症、胃腸疾患、腫瘍などが基礎にある場合には、その治療も行います。
 予後は基礎にある病気の存在にもよりますが、長期に渡り治療が必要になることも多いようです。