乳腺腫瘍




 雌犬の中高齢で乳腺に腫瘍ができる病気です。この病気はホルモンと大きく関係しています。
 犬の発情期の後には黄体期という
黄体ホルモンが出る時期があります。妊娠していなくても妊娠期間と同じ期間出て、子宮や乳腺を妊娠しているのと同じ状態にさせるホルモンです。このホルモンの影響で、乳腺が刺激され年月とともに腫瘍が起こります。
 発情期を繰り返す毎に病気になるリスクが高くなっていきます。繁殖に使わない動物では若いうちに避妊手術を受けておいた方が良いでしょう。最初の発情前に避妊手術を受けたコでは発生率は
0.05%以下、1回目と2回目の間では約8%に抑えることができます。2才半以降もしくは4回目の発情以降の手術では乳腺腫瘍への予防効果は薄いといわれています。
 犬では良性のものと悪性のものの比率は半々です。
 良性でも少しずつ確実に大きくなっていきます。転移は比較的少ないですが、大きくなると歩くのにじゃまになります。悪性腫瘍へ転換することも否定できません。
 悪性のものはより成長が早く、転移の確率も高いです。放置しておくとどんどん大きくなり、皮膚の一部が避けて細菌感染を起こすこともあります。
 根本的治療は外科手術になります。切除する大きさは腫瘍の大きさと周囲への浸潤度合いによります。リンパ節が腫れていたら、そちらも併せて取る必要があります。抗癌剤はあまり効果が期待できません。ただし、肺への転移が見られたときには手術しても肺の腫瘍によって亡くなってしまいます。
 発症するコは多くが中年以降なので、避妊手術による予防効果は期待できませんが、悪性腫瘍の約半数は性ホルモンに反応して大きくなることと、中高年では
子宮蓄膿症・卵巣腫瘍など性にまつわる病気が多いために、乳腺腫瘍の手術と同時に避妊手術をしておくことが推奨されています。
 腫瘍は確実に大きくなりますので小さいうちにとっておいた方がいいでしょう。大きさが2倍になると切除する部位は4-8倍以上になります。またリンパ節や肺への転移も否定できません。「小さいので様子を見る」というよりも「
小さいので今のうちに取っておく」という方が、傷の大きさ的にも年齢的にも本人の負担が少なくなります。
 ときに偽妊娠からの乳腺腫脹や乳腺炎などとの区別が付きにくいこともあり、その場合は腫れが引くかを観察する場合もあります。
 予後の判断のために、手術した後は組織を検査して悪性度を検査しておいた方がいいでしょう。