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腎臓は、血液中の老廃物を体外に排泄する働きや、体液のミネラルや浸透圧のバランスを調節する役割を担っている、体の中でも最も大切な臓器のひとつです。
慢性腎不全は腎臓の機能が低下して、体の中の老廃物の排泄能力や体液のバランスを調節する能力が失われた状態です。
急性腎不全は、虚血や毒性物質などによって腎臓が急激なダメージを受けたために起こるもので、それまで健康だった動物が急に具合が悪くなるのが特徴です。
慢性腎不全では、長期間を経て腎臓の組織が変性、萎縮をしていき、腎臓の中のネフロンという構造が失われていきます。一度だめになったネフロンは再生しないため、失われた機能が回復することはありません。
腎臓の組織構造は時間と共に、少しずつ失われていきますが、病気の最初の段階では、ダメになった部分を他の部分が補うことによって機能の喪失には至らないため、症状は見られません。原因は様々ですが、高齢化とともに組織が線維細胞に置き換わってしまっていることが多いです。
通常、腎臓の組織構造の喪失程度に伴って、以下の順に進行していきます。
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第一期
残存腎機能は33%以上。
老廃物の排泄機能はまだ残っているため、腎不全の症状は出ていません。しかし、尿の濃縮能力はその段階から少しずつ低下し始めるため、薄い尿(尿比重1.03以下)をするようになっていきます。
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↓腎糸球体高血圧
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第二期
残存腎機能は約25%。
老廃物の排泄機能が低下し始めるため、軽度のBUN・CRE上昇が見られます。尿はさらに薄くなり、血漿成分と同じ濃さ(尿比重1.008〜1.012:等張尿)となります。薄い尿を大量にする結果、喉が渇き、多飲多尿となります。多尿に伴い、低カリウム血症も見られます。 |
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↓脱水
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第三期
残存腎機能は10%以下。
BUN・CREはさらに上昇し、貧血や高リン血症なども見られるようになります。 |
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↓脱水
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第四期
残存腎機能は5%以下。
重度の腎不全に脱水が加わって、尿毒症の状態になっているものです。胃腸症状や神経症状、重度の貧血が見られます。
脱水でカリウムの排出能力が低下すると、高カリウム血症になります。 |
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腎臓は組織量の減少に伴い、機能を喪失していきますが、その内、最初に失われるのは尿の濃縮能力です。
腎臓は血液を濾した後、必要な水分を再吸収して、再利用しています。尿の濃縮能力が失われると、水分を再吸収する能力が低下するため、薄い尿がたくさんつくられます。すると体は脱水気味になるので、水をたくさん飲むようになります。
一般的に、体に必要な水分量は40〜60ml/kg/日です。それが体重あたり100mlを超えるようだと(10kgのイヌで1リットル)、明らかな多飲です。
血液検査で慢性腎不全と診断されるのは、通常BUNやクレアチニンなどの腎臓の数値の上昇によりますが、BUNやクレアチニンが上昇し出すのは、腎不全がかなり進行し、75%の組織が失われてから、すなわち第二期になってしまってからです。
慢性腎不全の初期では、BUN・クレアチニンが上昇する前に尿の濃縮能力が低下していますので、中年以降の動物では、定期的に尿検査をして、尿比重をチェックしておくことが役に立ちます。
第一期の状態から、第二期に進行するには、通常長い時間が必要です。第一期の間に、腎臓の血管が高血圧にさらされると、糸球体構造の喪失が加速されてしまいます。そのため、第一期の状態が疑われた場合には、塩分の取りすぎの注意や、糸球体高血圧軽減のためのACE製剤の使用が勧められています。
慢性腎不全の初期からACE阻害剤を服用することによって、腎臓の組織のダメージと変性を抑えることが期待されます。
腎不全において、一番の理想は、第一期の状態で発見して、それ以降の進行を抑えることです。一度ダメになってしまった腎組織は、回復しないからです。
そのため、中年齢以降では、半年〜1年に一度、尿比重をはかっておいて、腎不全の徴候がないか定期検査しておくことが推奨されます。
慢性腎不全が進行して、第二期以降の状態になると、老廃物の排泄低下も見られるようになり、多飲多尿、元気・食欲の低下、嘔吐・下痢、貧血、動脈性高血圧など様々な症状が見られるようになります。
末期には老廃物が神経に作用することによって神経症状なども見られます。
腎臓からは、エリスロポエチンという物質が分泌され、赤血球を作る指令が骨髄に出されています。腎不全の進行に伴ってエリスロポエチンの分泌が低下すると、貧血が起こります。
出血や溶血によって貧血が起きているときには、赤血球の再生が見られるようになりますが、エリスロポエチンの低下による貧血の時には、赤血球の再生像が見られない非再生性貧血となります。
また、体の水分と電解質の調節機能が低下するので、体は脱水状態になりやすく、脱水によってさらに腎臓での老廃物の排出は低下するため、尿毒素が上昇して症状が悪化します。
第二期から第三期へ、さらに第四期に進行する過程では、脱水が大きな役割を果たしていると言われています。
血液中のナトリウム貯留によって起こる動脈性高血圧にも注意です。
第四期の尿毒症の状態は、極度の脱水が併発して、老廃物を出せなくなってしまった状態です。
尿毒症でぐったりしている状態では、極度の脱水が起こっていますので、まず点滴によって脱水を補正する必要があります。
腎不全の第三期以降では、脱水が進行の鍵を握っていますので、体の脱水を防ぐことが重要です。そのために、定期的な皮下補液を続ける場合もあります。
腎不全が発見された場合、まず食餌の変更が必要です。塩分や蛋白の取りすぎは腎臓に悪影響を及ぼしますので、低塩分・低蛋白の食餌にする必要があります。
また、ある程度の寿命になったら、腎不全の有無にかかわらず老齢用のフードに切り替えて、腎不全の予防に努めることがおすすめされます。
その他、貧血が強い場合にはエリスロポエチンの注射を考えます。
ACE阻害剤は、第二期への進行の防止並びに高血圧の緩和に使用されます。
カリウムのバランスが崩れているときには、カリウムの補給もしくは、皮下注射による電解質コントロールが考慮されます。
いったん慢性腎不全になってしまったら、「悪いなりに安定した状態」で維持させることが治療の目指すところになります。腎臓自体は元に戻りませんので完治はありません。
定期的に血液検査を行い、尿毒素や貧血の値を調べた方がいいでしょう。
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